「今」の部下育成、マネジメントにおける問題点と解決策

上司と部下の間には2010年を境に大きな価値観ギャップ、それに伴うコミュニケーションギャップが発生しています。それを解消させるには上司及び企業そのものが変容するしかありません

1. 若手社員の変化した考え方や価値観をマネジメントのベースに

多様な価値観の誕生とマネジメント上の対応

現代の特にミレニアル世代やZ世代は、多様な価値観と柔軟な働き方を尊重しています。そして自分たちの価値観に合致したマネジメントを重視する傾向が強くなっています。これはインターネットやSNSで多様で異なる情報や価値観に触れて来たためです。彼らには一律の価値観での仕事や働き方はNOです。自分の価値観で仕事や働き方、仕事の社会的意義を考えるようになっています。

また彼らは、仕事とプライベートのバランスを大切にしています。自己成長やキャリアの発展に対する意識も高いです。そのためZ世代は、終身雇用制度などの古来の職場文化に疑問を抱いています。むしろ、成果主義やフレキシブルな働き方を好む傾向があります。

しかし同時にZ世代は同期、同世代など社内でありながら私的な集団から疎外されることを極端に恐れます。ですから公の場で率先して提案や自分の意見を主張することは嫌がります。しかし無記名アンケートやID無表示のネット掲示板などには積極的に意見を述べます。

これらの上司世代と違うマインドを理解し対応しないとマネジメントは成立しません。

自社、自分の仕事の社会的意義と持続可能性という価値観をマネジメントに取り入れる

若手社員は企業の社会的責任(CSR)や持続可能性(SDGs)への意識が高いです。彼らは利益を追求するほかに社会などに貢献できる企業で働くことに意義を感じます。よって企業には環境保護などを行い、若手社員の意欲を上げるマネジメントが必要です。

ただし特にSDGsは実際は自国に有利な市場開拓のため国家間競争です。しかし若手社員はインターネット上の情報にしか知りません。その情報の本質的な意味や情報の裏の意味を知りません。それらは自分が社会で活動する中で体感して初めて知るものだからです。ですからそれらの「美しいスローガン」の本質を選別する力を持っていません。その結果、無防備にそれらを受容し、信じ、行動基準にする傾向が高いのです。従ってマネジメント上、頭越しに否定するのはNGです。むしろその本質的な意味を理解させ、現実にアジャストさせる必要があります。

2. 上司のマネジメントが部下に通用しない

コミュニケーションギャップとマネジメント

上司と部下間の最も重要な問題はコミュニケーションギャップです。それはマネジメントを機能不全にしまう。特にZ世代の特徴から生じる問題点として以下が挙げられます。

デジタルネイティブと非デジタルネイティブの差

Z世代はデジタルネイティブと呼ばれています。幼少期からデジタルデバイスやインターネットに親しんでいるからです。彼らは、迅速な情報共有やコミュニケーションを重視します。そのためSNSやチャットツールを多用します。その背景には「ヒエラルキーの無い世界」という本質があります。一方、上司世代は、対面でのコミュニケーションや電話、メールを重視して来ました。従って彼らは明確なヒエラルキー構造の中でのコミュニケーションに慣れています。

ですから単なるツールや、形式の問題ではありません。それらの本質的なコミュニケーション空間のルールが異なるのです。ですからコミュニケーションギャップが生まれ、マネジメントが機能しなくなるのです。

リアルタイムフィードバックの要求

Z世代は、リアルタイムのフィードバックを求める傾向があります。彼らは、自分の仕事への評価を迅速に受け取りたいと思っています。しかし細かく言えば「肯定的評価」です。ですから上司の評価が定期的なもの、報告書などだけでは不満に思います。ましてや「否定的評価」を受けると異常にモチベーションが落ちます。

チームワークと個人の尊重のバランス

Z世代は、チームワークを重視します。同時に自分自身の意見や個性の尊重を求めます。ですから上司が従来のトップダウンだけでマネジメントすると不満に思います。Z世代は自分の意見が評価され採用されないと不満に思うのです。これがモチベーションの低下やコミュニケーションの断絶を招く原因となります。

モチベーションの低下

若手社員はキャリアアップや自己実現の機会が不足していると頻繁に感じます。そしてモチベーションを低下させます。上司が部下のキャリアパスを理解し、適切な支援を行わないと、転職を考え始めます。

さらにその傾向は昨今、一層強くなっています。本来、キャリアアップや自己実現は比較的長期間在籍しないとわからない問題です。しかし彼らはそれを非常に短気間で判断します。また入社後、リアルな経営の仕組みの一端だけから、それが企業理念と一致しているか判断します。ズレていると知ると、それだけで即離職してしまいます。

働き方の柔軟性に対する理解不足

多くの若手社員は、リモートワークやフレックスタイムを希望しています。しかし、上司が従来のマネジメントに固執すると若手社員との間で摩擦が生じます。特に、成果よりも「取り組み姿勢」を重視することは柔軟な働き方と反してしまいます。

3. 問題を解決するための上司のマネジメント改革

コミュニケーションの質を向上させる

上司は若手社員との積極的なコミュニケーションで、本音や価値観を理解すべきです。たとえば定期的な1on1ミーティングで評価や意見交換をすることです。また、部下の意見をよく聞き、前向きな評価を与え信頼関係を築きましょう。

ただし若手社員は「個性重視」で育っています。ですから一律のマネジメントスタイルで接し、両者が偶然一致すると良好な結果が出ます。しかしズレていた場合は悲惨なコミュニケーション不全が起こります。お互い不信感や部下のモチベーションダウンが発生します。

デジタルツールの活用

上司は、デジタルツールを活用し、迅速なコミュニケーションが要求されます。一般生活でもSNSで即返事をしないと友情が壊れます。上司部下も同様です。小さなことでも頻繁にフィードバックをすると信頼につながります。また、オンライン会議やプロジェクト管理ツールを活用することで、リモートワーク環境でも円滑なコミュニケーションを維持することができます。

これはツールの利用方法の仕方によっては、Z世代の「評価されたいが目立つのはイヤだ」というメンタリティを上手くマネジメントできる可能性があります。

部下の成長支援

上司は、単なる指示を出すだけでなく、部下の成長を支援する役割を果たすべきです。具体的には、目標設定の支援やキャリア開発に関するアドバイスを行うことで、若手社員が自身の成長を実感できるようにします。これにより、若手社員のモチベーションを高めることができます。

その際のコミュニケーションとしてコーチングとメンタリングが挙げられることが多いようです。しかし、コーチングは「地頭の良い」相手にしか通用しません。メンタリングはメンターの側にスキルがなければ、双方にとってマイナスの効果が出てしまいます。

よってほかのほかの育成スキル、コミュニケーションスキルを考えた方が良いでしょう。

柔軟な働き方を支援する

上司自身が柔軟な働き方を理解し、実践することで、部下に対しても同様の働き方を推奨することができます。例えば、リモートワークやフレックスタイムの導入を積極的にサポートし、成果に基づいた評価を行うことで、若手社員の働きやすさを向上させることができます。

4. 企業が対策を講じなければいけないこと

職場環境(ハード面)の整備

企業は、若手社員が働きやすい職場環境を整備することが重要です。例えば、オフィスのデザインを改善し、コラボレーションを促進するようなデスク配置が考えられます。しかしこれも、全てをそのコンセプトにしてしまうと、対面のコミュニケーションが苦手な社員にとって、職場は居心地の悪い場所になってしまうので注意が必要です。また、最新のITインフラやツールを導入し、効率的な業務遂行を支援することも効果的です。

人事制度(ソフト面)の見直し

企業は、人事制度を見直し、若手社員のニーズに応じた柔軟な制度を導入する必要があります。具体的には、以下のような取り組みが求められます。

成果主義の導入

若手社員は、年功序列よりも成果に基づいた評価、昇進、裁量付与を望んでいます。企業は、透明性の高い評価基準を設け、成果主義を導入することで、若手社員のモチベーションを高めることができます。ただし一方で、ベテラン社員の価値観を崩壊させてしまう危険性もありますので、その点についての対策も一緒に考えなければなりません。

キャリアパスの明確化

若手社員が自身のキャリアビジョンを描けるように、明確なキャリアパスを提示することが重要です。定期的なキャリア面談やスキルアップのための研修プログラムを提供することで、若手社員の成長を支援します。

フレキシブルな働き方の推進

リモートワークやフレックスタイムなど、柔軟な働き方を導入することで、若手社員が働きやすい環境を整えます。また、ワークライフバランスを重視した制度(例えば、有給休暇の取得推奨や育児・介護休暇の充実)を導入することで、若手社員の離職率を低減し、長期休職からの復職を促進させることができます。

社内コミュニケーションの強化

社内コミュニケーションを強化するために、企業は様々な取り組みを行うことが重要です。例えば、社内SNSやチャットツールを活用して、情報共有やコミュニケーションを活性化させることが考えられます。また、定期的な全社ミーティングや部署ごとの懇親会を通じて、社員同士の絆を深めることも有効です。

ただしリアルなコミュニケーションの場の設け方には注意が必要です。何の工夫もなく実施すると間違いなく、過去の宴会的コミュニケーションになるか、互いにコミュニケーションのきっかけがなく「いつも話している同僚同士が集まるだけで普段と変わらない」ということになってしまうでしょう。

ダイバーシティ&インクルージョンの推進

多様なバックグラウンドを持つ社員が活躍できる職場環境を整えることが、企業の成長に不可欠です。ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進により、様々な視点やアイデアが生まれやすくなり、イノベーションが促進されます。具体的には、ジェンダー平等や国際化、多様な働き方の推進を行うことで、若手社員の多様なニーズに応えることができます。

結論

現代の若手社員の考え方や価値観は、従来とは大きく異なり、多様性や柔軟性、社会貢献を重視する傾向が強まっています。上司と部下の間で生じるコミュニケーションギャップやモチベーションの低下、柔軟な働き方に対する理解不足といった問題を解決するためには、上司自身が若手社員のニーズを理解し、積極的にサポートすることが求められます。

ただしそれをただのスローガンにしても効果はないでしょう。具体的なイベントとして、ファッションフレックスデーを設け、かつ上司に似合う服装を部下が選び、強制的に上司はそれを着なければならない、などの仕掛けを作る必要があります。

また、企業としても職場環境や人事制度を見直し、若手社員が働きやすい環境を整えることが重要です。具体的には、成果主義の導入やキャリアパスの明確化、フレキシブルな働き方の推進、社内コミュニケーションの強化、ダイバーシティ&インクルージョンの推進などが挙げられます。これらの取り組みにより、若手社員のモチベーションとエンゲージメントを高め、企業全体の成長と発展に寄与することが期待されます。