「若手社員が自発的学習と成長意欲を持たない」問題の解決法
Ⅰ はじめに
近年、多くの企業が悩んでいる問題があります。若手社員のモチベーション低下。自発的な成長意欲の不足。などがそれです。特に自ら学び成長しようとする姿勢が見られない。という現象は、多くの経営者や人事担当者にとって大問題です。ここでは、なぜ若手社員が学びや成長への意欲を持てないのか。その理由を探り、その状態を放置することリスク。そして具体的な解決方法をご提案します。
Ⅱ 若手社員は本当に自発性、モチベーションが低いのか
若手社員の自発性やモチベーションの低さはデータに現れています。リクルートの「2023年新入社員意識調査」はこのように述べています。新入社員のうち「任された仕事を確実に進めること」を重視する傾向が強まっています。その割合は過去最高の38.9%に達しています。逆に「何事も率先して真剣に取り組むこと」を重要視する割合はわずか13.8%です。これは過去最低水準です。つまり、自ら進んでチャレンジする意識が低い。堅実さを優先する。というのは若手社員の傾向なのです。
また、上司に対する要望もかつてとは違います。「一人ひとりに丁寧に指導してほしい」という希望が49.1%と高いのです。逆に厳しい指導や自主性を重視する期待は減少しています。この傾向は「個」を尊重する風潮や失敗への不安が背景にあると考えられます。
Ⅲ 若手社員の成長意欲の低下がもたらす企業へのリスク
若手社員の成長意欲の低下が企業に与えるリスクは多岐にわたります。成長支援に不十分な企業は最終的に深刻な問題を抱えます。業績低下。人材流出などがそれです。
1 離職率の高さ
例えば、多くの企業が経験しているのは「若手の離職率の高さ」です。HR総研の調査では、若手社員は「待遇面での不満」。「業務内容のミスマッチ」。「上司との人間関係の不満」。「望んだスキルが配属部署で身に付かない」などで離職しています。
2 企業の競争力の鈍化
成長支援の不足がもたらすリスクの代表例を挙げましょう。それはIBMがかつて直面した課題です。同社はIT技術の急速な変化に対する若手社員のスキル教育が疎かになりました。結果、デジタル競争力を維持できず、パソコン部門の売却につながりました。この苦い経験から同社は、近年「新しいスキル習得の機会」の提供を重視しています。この変革がなければ、同社は現IT市場から完全な撤退を余儀なくされていたでしょう。つまりギリギリ改革が間に合ったのです。
3 企業の危機感の喪失
また「生ぬるい職場環境」が原因だとも言えます。若手社員にチャレンジを強要する環境に追い込まなかったのです。結果企業全体の危機感が喪失しました。同時に革新力も低下し、新しいアイデアや視点が生まれる環境もなくなりました。それが企業の成長を鈍化させたのです。
このように、若手社員の成長意欲を軽視すると、企業全体の競争力が低下します。若手社員の離職率が上昇したら赤信号です。
Ⅳ 若手社員が自発的に学び成長する意欲を持たない理由
では若手社員はなぜ自発的に学び成長する意欲を持たないのでしょう。その理由には、以下のような要因が考えられます。
1. 目標設定の不明確さ
多くの若手社員は、自分のキャリアビジョンや目標が明確でありません。従って成長に対するモチベーションが不足しています。パーソル総合研究所の調査はこのように述べています。若手社員の一部は会社を利用したキャリア形成、スキル習得を考えています。彼らは長期的なキャリアパスがない会社からは、目的達成次第転職して行きます。逆に長期的な目標が曖昧な若手社員は、今、何をするべきか、という意識がありません。従って具体的な成長への意欲が低下しがちです。
また、現場の業務が忙しいと目の前のタスクをこなしすことで満足させてしまいます。長期的な成長意欲は醸成されません。
2. フィードバック不足
若手社員が自ら学び、成長するためには上司や先輩からのフィードバックが重要です。しかし、リモートワークが直接的なフィードバックを奪いました。社員の成長実感や意欲が低下しているのはこのためです。パーソル総合研究所の2022年調査でもこの相関は指摘されています。
3. 失敗に対する不安感
特に若手社員は失敗に対して強い不安感を抱きがちです。これは「ミスをさせないようにようにする」学校教育の悪影響です。学内試験で順位を明示しない。徒競走で全員手をつないでゴールし、ビリを作らない。など全てがそれです。これが逆に彼らから失敗するチャンスを奪いました。結果、失敗を異常に恐れ、できる限り新しい挑戦をしないようになったのです。「日本の人事部」のレポートでもこの点が指摘されています。
本来は既存の方法を踏襲して失敗しないより、チャレンジして失敗した方が評価が高い。という社内システム、社内風土にする必要があります。
4. 即時成果主義への偏重
多くの企業では短期的な成果が重視される傾向があります。若手社員は、長期的な成長を目指すよりも、すぐに成果が見える業務に集中しがちです。リモートワークやタスク管理ツールの発達が、進捗を可視化してしまいました。その結果、彼らは短期目標の達成を優先するようになったのです。
企業は短期的な業務成果を評価する。と同時に失敗したチャレンジ。長期的なスキル習得。も同じ土俵で同じ評価をする仕組みの導入が必要です。
5. キャリアパスの不透明さ
若手社員にとって、自身のキャリアパスが明確でないことが成長意欲の低下に繋がる場合があります。多くの企業では、将来的なキャリアの可能性や成長のロードマップが不透明であるため、若手社員は自ら学ぶ意欲を持ちづらくなります。特に20代の社員は、自己の市場価値を高めたいという意識が強いにもかかわらず、企業内でその成長がどう評価されるかが見えにくいと感じています。
6. 職場での個別支援の不足
若手社員は「自分を尊重してくれる環境」を求める傾向が強く、上司や先輩からの適切なサポートがないとモチベーションが低下しがちです。リクルートの調査によれば、若手社員の約半数が「一人ひとりに丁寧に指導してほしい」と望んでいるものの、実際にはこうした支援が不十分であるケースが多いとされています。
職場の構造や指導方法が個人のニーズに合わないと、学びや成長の意欲が失われてしまいます。
7. リモートワークの影響
コロナ禍以降のリモートワークの浸透により、若手社員は成長機会を逃しやすくなっています。対面での指導が減少し、メンターや先輩と接する機会が限られることで、仕事の進め方を学び取る機会が減少しています。パーソル総合研究所の報告でも、リモートワークの影響で成長を実感しにくいと感じている若手社員が多いことが示されています。
これらの要因が複合的に働くことで、若手社員が自発的に成長しようとする意欲が低下している状況が考えられます。
Ⅴ 若手社員の成長意欲を引き出すための対策
若手社員の成長意欲を引き出すために、すぐに実践できる具体的な対策を以下に挙げます。これらは現場で即取り組める施策であり、長期的な成長支援にもつながります。
1. 目標設定と進捗確認の「1on1ミーティング」を週1回実施
上司と若手社員が週1回の「1on1ミーティング」を行い、進捗や学びの機会、目標設定について話し合います。具体的には、以下のような質問を取り入れると効果的です。
- 今週の目標達成度や成長を感じた点
- 現在の課題や悩み、解決に向けてサポートが必要な点
- 次の週の小目標設定 こうした定期的なミーティングは、上司からのフィードバックと若手社員の成長意欲を高める機会になります。マイクロソフトやリクルートなどの企業も、若手の育成に「1on1ミーティング」を積極的に取り入れ、成果を上げています。
2. 「シャドーイング」や「ローテーション制度」を導入
1日の仕事の中で先輩社員と一緒に仕事をする「シャドーイング」や、異なる部署やプロジェクトでの短期間の仕事体験を行う「ローテーション制度」は、若手社員が新しいスキルを身に着ける機会になります。シャドーイングにより、実務を通じて即座に学び、スキルアップを図ることができ、ローテーションによって自分の適性や強みを見つける手助けにもなります。三菱商事やソフトバンクなどの企業がこうした制度を活用しており、社員の成長意欲を促進する効果が報告されています。
3. 「ピアメンタリング制度」を導入
同期や近い年次の社員が互いに学び合う「ピアメンタリング制度」も即実践できる方法です。例えば、週に1回、社員同士が各自の業務や課題について話し合う場を設けます。これにより、若手社員は新しい知見を得たり、他の視点から問題解決を学んだりすることができます。ピアメンタリングは、気軽に質問できる環境を作るため、心理的安全性が高まり、学びの意欲を引き出す効果が期待できます。
4. 成長につながる「フィードバック文化」を強化
若手社員に対するフィードバックは、ポジティブな点と改善点をバランスよく伝えることが重要です。リモート環境下でも、TeamsやSlackなどを使って日々の成果や改善点をこまめにフィードバックすることで、若手社員が成長実感を持ちやすくなります。例えば、「このプレゼン資料は見やすくできている」という具体的な指摘や、「ここを改善するともっと効果的」といった実践的なアドバイスが有効です。
5. 「短期集中型スキルトレーニング」を実施
若手社員が業務に必要なスキルを短期間で集中的に学べる機会を提供します。例えば、ExcelやPythonなどの特定スキルに絞った2週間の集中トレーニングや、eラーニングの導入などです。このトレーニングで得たスキルをすぐに業務に応用することで、達成感と成長意欲を高めることができます。Googleなどは短期集中のトレーニングプログラムを取り入れており、新しいスキル習得のきっかけとして有効とされています。
6. 「チャレンジプロジェクト」への積極的なアサイン
若手社員が通常の業務から離れて新しい課題に挑戦できる「チャレンジプロジェクト」を用意します。例えば、他部署と連携した新商品開発の企画に参加させる、もしくは社内のデジタル化推進チームに参加するなどです。こうした経験により、自分の成長を実感し、また新しい視野を広げることができます。
7. 小さな成功体験を積む機会を作る
若手社員が小さな成功を積み重ねることで自信を持ち、次の挑戦へとつながります。例えば、短期的な目標を設け、達成した際にその成果をチーム内で共有して称賛する場を作ると良いでしょう。こうした成功体験はモチベーションの向上につながり、成長意欲を高めます。
これらの施策を組み合わせ、実践的かつ持続的に行うことで、若手社員の成長意欲を引き出す効果が期待できます。
Ⅵ このような問題は私たちにサポートさせてください
私たちヒューマンパワー研究所は、企業様を人材力の点で強化する30年に亘って30年に亘って実践しています。その中で、人の価値観に合わせたマネジメント理論、誰でもすぐやる気になるモチベーション理論、フラットな組織を作り運用するための人事戦略、社内コミュニケーションメソッド、企業風土醸成メソッド、以上を実践するための研修会を階層型、オフサイト型での企画・運営、社内コミュニケーションネットワークシステムの効果的な導入など広汎にご提案、実践サポートをして来ました。
「若手社員の意欲を引き出す」ことは実は若手社員だけの問題ではなく、社内の人材リソースのマネジメントそのものの問題でもあります。
ぜひそのような問題を感じておられたら、あるいはミクロ的に自部署の若手社員の自主性が低いと感じてられ手いたら、あるいは現在の20世紀型ピラミッド組織を21世紀型のフラット&ラーニング組織にしたいとお考えの場合、こちらからぜひ私たちにご相談ください。(ご相談は何回でも何時間でも無料でさせていただきます)。
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Ⅶ 持続的成長が可能な企業となるために
若手社員の成長意欲を高めるための取り組みは、企業の未来にとって重要な投資です。しかし、このような施策の成功には、単なる個別の対策ではなく、根本的な人事戦略の再考が求められます。特に、管理職以上のリーダー層が「一方的な指導からの脱却」というパラダイムシフトを図り、若手社員の主体性を引き出す支援型のマネジメントを実践することが不可欠です。
また、若手社員の就労意識や価値観は、時代や社会の変化に伴い常に変動します。企業はこれを「一時的な現象」と捉えるのではなく、継続的なリサーチを行い、若手の意識やニーズを人事戦略に反映させていく必要があります。例えば、柔軟な働き方や自己成長への支援が求められる時代において、従来の評価基準や育成方法が適応できているかを見直し、変化に合わせた体制構築が求められます。
こうした新たな人事戦略を取り入れることは、企業が若手社員の成長を支え、優秀な人材を持続的に確保するための道筋をつけるために重要です。若手社員が主体的に学び成長する風土を醸成し、企業全体で変革を促すためには、上層部の理解と積極的なリーダーシップが不可欠です。