日本でFIREを希望する若年男性が倍増している理由とは
Ⅰ 変わりゆく「働き方」とFIRE
最近の若年労働者の中で「FIRE」が「憧れ」だということをご存じですか?私は話としては知っていましたが、身近に感じたのは以下のような体験以降のことです。
近年、テレビ番組の出演者が大きく変わってきていることにふと気づいてたのです。
そもそも私がテレビで見るのはニュースとドキュメンタリーだけです。その中にそれぞれの「リタイア後の充実した生活」を取材した番組があります。かつては、定年退職後の人生を謳歌するシニア層が「リタイア番組」の主役でした。しかし今や20代、30代たちが「移住番組」「リタイア番組」の主役です。つまり今の若年労働者は若い頃から自分らしい働き方、生き方を求めているのです。漁師、農家、大工などかつては3Kと敬遠されていた職業に、彼らは積極的に取り組んでいるのです。
この現象の裏には、若年労働者たちの間で「FIRE」という概念が注目されていることがあります。FIREとは、Financial Independence, Retire Earlyの略です。経済的自立を達成し、早期退職することを目指すライフスタイルのことです。では、なぜ日本の若年男性を中心にFIREが人気を集めているのでしょうか?
Ⅱ なぜ若年男性はFIREを目指すのか?
1 若年男性のFIRE希望者数は倍増傾向
2024年9月15日づけの「毎日新聞」に以下の記事が載っています。
パーソル総合研究所が全国15~69歳の働く男女1万人を対象にした「働く10000人の就業・成長定点調査」を実施した。すると「人生で何歳まで働きたいと思うか」との質問に対して、20代男性は58・0歳、30代男性は62・4歳と言う結果だった。2017年の調査では、20代男性が63・8歳、30代男性が66・6歳だったので、それぞれ4歳以上早まっている。
また、リタイア希望年齢は20代男性で「50歳以下」とした割合は29.1%で2017年の13.7%の2倍以上となった。30代男性で「55歳以下」とした人も14.3%から28.1%と倍増した。
一方で20~30代の女性や、40代以上の男女はおおむね横ばいで推移しており、パーソル総研では「20~30代男性で特異的に早期リタイアしたいと考える人が増えている」と分析している。
つまり知らない間にこの数年で「FIRE」を希望する若年層が倍増していたのです。これはなぜ起こっている現象なのでしょうか。
2 なぜ若年男性のFIRE希望者が大きく増加傾向なのか
その理由は以下のように挙げられると思います。
理由①:従来の働き方への不満
⑴具体的な不満
古いマネジメント手法
上司の指示待ちや長時間労働など、従来の働き方に不満を抱いている若年労働者が多い。
やりがい不足
仕事にやりがいを持てず、プライベートを重視したいとする若年労働者が増加している。
⑵価値観の変化に追いつかない労働制度
企業の働き方改革の遅れ:
年功序列や終身雇用といった古い慣習が残っている企業がまだ多い。若年労働者たちの多様な価値観や働き方に対応できていない。
長時間労働の横行
残業時間が長い。休日出勤が多い。このような長時間労働が、特に中小企業では依然、改善されていない。
キャリアアップの機会不足
若いうちからキャリアアップできる機会が少ない。そのため将来への不安を感じている若年労働者も多い。
従来の働き方は、企業の利益を最大化することが最重要でした。従業員は組織の一員として従属的な立場でした。しかし、現代の若年労働者たちは、個人の成長や幸福を重視しています。そのためより主体的に働き方を選択したいと考えています。この両者の間に大きなギャップが生じ、若年層が働き方に不満を抱く一因です。
理由②:「働き方」情報の多様化、旧来の労働固定観念の消失
⑴労働価値観の多様化:
自己実現
単なる収入のためだけではない。自分の能力や興味関心を活かして仕事を通じて自己実現したいという意識が強い。
ワークライフバランス
仕事だけでなく、プライベートの時間も大切にしたいという意識が高っている。従って長時間労働や休日出勤に抵抗を感じる。特に自分として価値を感じない業務を残業して行うことには全くモチベーションが上がらない。担当を拒否する場合もある。
社会貢献
社会に対して貢献したいという意識が強い。学生時代にボランティア体験をしたケースも多い。そのため利益追求だけでなく、社会的な意義のある仕事に魅力を感じる傾向が強い。
バブル以降、日本の経済が停滞していた時期に彼らは入社し、給与据え置き、減額という経験をしている。その状況をポジティブに乗り切るために、物質的な豊かさよりも、精神的な満足や、給与ではなく自分の夢を実現させることを重視する価値観が生まれた。
⑵働き方の多様化:
旧来の労働固定観念の消失
インターネットを通じて、様々な働き方を知ることが容易になった。従来の会社員という働き方以外にも、フリーランス、起業、副業などがあること。事業的にも第1次産業の魅力がSNSなどで発信されたこと。これらが従来の働き方への固定観念を消滅させつつある。
柔軟な働き方への肯定:
インターネット環境の進化により、リモートワークが広がった。つまり時間や場所にとらわれない働き方である。特にコロナ騒動以降、その傾向は強化された。その結果、従来の「朝起きて会社に行って夜家に帰る」という、時間と場所の制約下での働き方にこだわる理由と必然性を失っている。
⑶労働環境の整備
育児支援制度の充実
女性の社会進出を後押しする制度が設けられた。育児休業制度や保育所の整備など、育児支援制度が充実した。その結果、女性はキャリア志向が高まった。一方で男性は逆にワークライフバランスを重視するようになった。
理由③合理的な労働環境がZ世代のモチベーションのあり方に合わない
また「今の若年層に合わせて刷新したつもり」だった合理的な仕事環境が、逆に彼らのモチベーションを下げている可能性もあるのです。
⑴Z世代のモチベーションの特徴
成長意欲の高さ:
単なる仕事ではなく、社会貢献や自己成長につながるような、より大きな目的意識を持って仕事に取り組む傾向がある。
多様性への理解:
多様な価値観やバックグラウンドを持つ人々と共存し、それぞれが持つ個性を尊重することを重要視し、同時に自分もそのように扱われることを当然だと思っている。
仲間組織からの脱落への異常な恐れ:
固定的な働き方ではなく、リモートワークやフレックスタイム制など、自分自身のライフスタイルに合わせた働き方を求める。
高い自己承認欲求:
上司や同僚からの承認、賞賛、高評価を求める意識が強い。そのためフィードバックを重視し、上司などからそれがないと大きく持つベーションを落とす。また否定的な指摘を受けると、それを反省材料にして自己改善を行う、ということはなく、単純に異常にモチベーションを落とす。
企業の社会的責任の重視:
企業が社会に対してどのような貢献をしているか、サステナビリティを重視しているかなどを重視し、そういった企業で働きたいという意識が強い。
⑵Z世代のモチベーションが形成された背景
ではこのようなZ世代のモチベーションのあり方は社会のどのような変化に伴って培われたのでしょうか。
情報豊富な環境
インターネットの普及により、情報過多な環境で育ったZ世代は、大量の情報の中から自分にとって必要な情報を収集し、豊富な情報をもとに自分の意見を考える能力を身につけている。
グローバル化
海外の情報が簡単に手に入るようになった。高校、大学での積極的な英語教育充実に伴う留学体験者の増加、企業のグローバル化による帰国子女の増加によって、グローバル意識が強くなり、多文化共生や多様性の重要性を理解している。SNSによる新しいいじめの発生
SNSの普及によって、それを通じた新しいいじめの発生=本人の知らない間に仲間組織から疎外される、ということを中学以降体験しているため、集団の中で目立つことを極端に嫌う。従って、集合研修や通常の授業などでは絶対に積極的に発言しない。
低迷経済による格差の拡大:
バブル崩壊以降の日本経済の低迷は中小企業においては、まだ残っている。そういう会社に入社すると、大幅な昇給の経験を持たない。だからサラリーマンという職業自体へのコミットが少ない。一方で、投機的な金融取引、即効性のある儲け話にうまく乗ってFIREしたごく一部の人間の存在も知っている。彼らが一般社会人と比べて金銭的にはるかに恵まれた生活を、若年の段階で実現していることも知っている。だから自分もそのようになることを夢見ている。同時に給与が上がらないため、労働あるいは生きて行くモチベーションを金銭的報酬意外に見つけようともする。
⑶合理主義に傾いている社内環境
極端な成果主義
現代の企業自体が株主からかつてないほど短期業績、短期成果を求められている。従って社員の評価、マネジメントも極端な成果主義に傾いている。本来Z世代は、周囲と親和的な環境で、チームで成果を出すことに喜びを感じる傾向が強い。だから個人の業績追求が評価の基本になると、非常にモチベーションを落としてしまう。
合理的な労働形態
リモートワークが増え、自分の生活スタイルに合った仕事の仕方ができることにはモチベーションが上がる。しかし一方でZ世代は同僚や先輩後輩との人間関係における好意的な刺激を最も求めるの傾向が強く、リモートワークではそれが得られず、モチベーションが下降傾向になってしまう。
Ⅲ 企業と社会が向き合うべき課題
若年労働者たちの意識が大きく変化している中で、企業や社会はどのように対応していくべきでしょうか?
1 企業における若年層のモチベーション向上
多様な働き方の導入:
リモートワーク、フレックスタイム制、副業解禁など、多様な働き方を導入することで、若年社員たちのモチベーション向上を図る。
キャリアパス設計:
若年社員たちが「この会社にいれば自分が本当に成長する」と思える将来像を提示する。その上でそこに至るロードマップ、制度、研修体制などを複合的に整備する。
ボランティア活動の推進:
ボランティア活動を「自己成長」の一貫になるものとして、企業研修の1項目に組み入れる。業務として現業を休み、ボランティア活動に参加できる制度を設ける。また社内のコミュニケーションツールに、ボランティア体験の共有のためのサイトを用意する。そして積極的に体験報告ができる、読めるようにする。
2 労働形態の多様化に対応した評価制度、マネジメント方法の開発
⑴評価基準の明確化:
成果重視:
数値目標や成果を基に評価し、労働形態と関係なく、公平な貢献度を算定する。
目標設定の個別化:
一人ひとりの役割や強みを考慮し、個別目標を設定することで、働き方の違いを考慮した評価が可能になる。
定期的な面談を通じて、目標達成状況を確認し、必要に応じて目標を調整する。
コミュニケーション評価:
リモートワーク同士、リモートワークとオフィスワーク同士での正式な業務以外、いわゆるオフサイトなコミュニケーションを行う。その場で互いにモチベーションを上げ合う。課題や問題点を解決する。自業務以外のテーマの提案やチーム運営方法の改善提案を行う。などの目に見えない貢献を360度評価(上司、同僚、部下など、多角的な視点から評価する)によって、評価に反映させる。
ツール活用:
プロジェクト管理ツールやタスク管理ツールなどを活用することで、従業員の活動状況を可視化し、客観的な評価に繋げる。
評価基準の定期的な見直し:
組織の変化や働き方の変化に合わせて、評価基準を定期的に見直す。
3 本業と副業相互の弁証法的止揚の追求
「弁証法的止揚」とは、異なる経験や考えの間で互いに刺激し合い、結果として両方とも成長していくことを指します。つまり、仕事において
- 副業で得た知見を本業に生かし業績に貢献する。
- 本業で得た知見を副業で生かし手取り収入を増やし、本業で得られない自己肯定感を得る。
ことです。違う仕事をしながら結果的に両方の仕事のレベルを上げること。能力的にも収入的にも、また満足感的にも高いレベルで充足させること。それを、会社の労働方針としても積極的に推奨することが重要です。合わせて当然、人事制度、マネジメント方法もその方針を踏まえたものに変革させることも大切です。
FIREは時代が「新しい労働方法」を求めているサイン
若年労働者たちの間で広がるFIREの流行は、単なる一過性のブームではなく、働き方に対する意識が大きく変化していることを示す一つの指標と言えるでしょう。
企業は、若年労働者たちの多様な価値観を尊重し、働きやすい環境を整えることで、優秀な人材を確保し、企業の成長に繋げることができます。また、社会全体として、若年労働者たちが自分らしく生きられるような社会を築いていくことが求められています。
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