変化し続け、多様化がさらに進む市場で、生き残るのは「フラット型組織」というのは確かでしょう。しかしフラット型組織では、突然発生する大問題への対応、つまり危機対応はできません。
フラット型組織を実現するための企業様の努力
フラット型組織を実現するために、多くの企業様が以下の方策を導入しています。
- 上司を「さん」付けで呼ぶ運動
- 「中間管理職」の廃止
- 目安箱の設置
- 社員対象のアイデアコンテスト
- 挙手した社員による新規プロジェクト
- 社内ネット上の日報システム(社長への直接報告、社長からの直接指示・感想)
- インサイト・ミーティング(部署、役職を外したラフな情報・意見交換の場)
どれもフラット型組織の実現のためには有効な方策です。
フラット型組織の中間管理職は危機対応できるか?
しかしフラット型組織には大きな欠点があります。それは
中間管理職が機能しなくなる
という点です。フラット型組織では現場や若手社員と経営層は直接つながります。すると彼らはいつも上ばかり見て行動する「ヒラメ族」になってしまいます。
一方で中間管理職は仮に部下から相談されても、自分の判断が社長の判断と逆かも、と答えることに及び腰になります。
部下に「見直すように」と指示した案件が、いつの間にか部下が社長に直接プレゼンをして「社長の了解」を取っていた、ということが続けば、中間管理職は無力感を持ち、仕事へのモチベーションも下がるでしょう。
フラット型組織に起こった緊急事態事例~会社は対応できたのか?
フラット型組織で成長した某医薬品企業を襲った緊急事態
この中間管理職の問題も、自社を市場対応型にするために企業様は割り切っています。
しかし、2024年に某医薬品会社で発生した「サプリメント飲用者の死亡事件」は、フラット型組織の欠陥を露わにしました。
私たちは直接、某社様とのお付き合いはありません。が、理由があってその社内風土を比較的詳しく知っています。
某社は現・会長が社長の時すでにワンマン会社であり、結果的にフラット型組織でした。しかしその社長が若手や現場の意見を吸い上げ、数々の画期的な新製品、印象に残るネーミングの製品を発売し、弱小企業を年商1000億円を超すまで育てたのです。
緊急事態!でも誰も「責任をもって判断する」ことができなかった
今回は「飲用者の死亡」という医薬品企業にとって最悪のトラブル後、「使用中止」の発表まで3カ月もかかったことが強く非難されています。
しかし私たちにはそうなってしまった理由を想像できます。
通常の企業なら、緊急情報がサポートセンターや営業現場など部門長レベルに達した段階で「使用中止」の判断が出ていたはずです。しかしフラット型組織の某社では、中間管理職の誰も責任をもって「判断ができない」「判断していいのか分からない」ため、会社全体が硬直してしまったのだと思います。
なぜ現場から社長に直接情報が行かなかったのか、という疑問もあるかも知れません。しかし社員が直接社長に情報発信するのは誰もが社長に褒めてもらいたいからです。ですからポジティブ情報は伝えるのです。
しかし今回の超ネガティブ情報を社長に伝える勇気ある社員は誰もいなかったのでしょう。そのため緊急事態発生という情報は社長までなかなか届かなかったのです。
その結果、社長に事故が報告され、社長が1人で判断できずに会長に相談し、やっと「使用中止」の指示が出たのだと想像します。ここまでの間に3カ月かかったのです。
つまり市場攻略には有効だったフラット型組織は緊急時には機能しなかったのです。
フラット型組織では危機対応はできない
この事例から「フラット型組織」には以下のような致命的欠陥があると分かります。
- 成果を上げるための仕事ではなく、良い報告をするための仕事になっている
- 中間管理職が「責任をもって判断をする」という役割、権限、意識を持っていない
- 危機対応の指示が上から降りてこない現場は、各自が勝手に判断して非効率に対応してしまう
- ネガティブな情報ほどトップに上がって来ない
- 危機対応が後手後手に回ってしまい、市場からの信頼も失墜する
このように企業が(あるいはトップが)イニシアチブを持って判断し、指示しなければならないはずの大トラブルに対して、「フラット型組織」は機能しません。その結果、市場・顧客からの信頼も失墜し、業績へ大きく悪影響が出てしまいました。ではやはり「ピラミッド型組織」の企業経営の方がいいのでしょうか。しかしそれでは市場対応ができずにやはり業績が落ちてしまいます。
企業はいったいどのような組織を作るのがベストなのでしょうか?